元々浴室内部は木造で板張りであったが近代的でモダンな雰囲気と圧倒的な清潔さから陶器のタイルが好まれ、採用された。タイルを最初に日本で使ったのは観光地の温泉で、イメージとしてのローマ風呂に影響されたらしい。戦前には当時の最高級だった舶来のマジョリカタイルを大量に個人輸入し、絢爛豪華な浴室を誇った銭湯の主人も多かった。タイル使用は戦前にまで考現することができるが、詳細は定かでない。いずれにせよタイルの魅力は、欠けた部分だけを張り替えればよいという利便性にもあったようだ。
全国の湯治場や温泉街では、湯治による病気や怪我の平癒の願いと信仰とが結びつき、古くから寺社建築のような外観の共同浴場を見ることができる。これが関東大震災後に東京で成立する宮型造り銭湯の様式としても採用された。主に関東近郊にこの建築様式が集中しており、地方の銭湯では見られずきわめて数が少ない。この宮型造り銭湯の都心での発祥は東京墨田区東向島の「カブキ湯」に始まる。この建物入口に「唐破風」(記事冒頭部、子宝湯頭写真中央の曲線形の庇)もしくは「破風」が正面につく建築様式を『宮型』という。
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神社仏閣や城郭の天守を想起させる切り妻の屋根飾りに合掌組を反曲させた曲線(写真建物の上端部)は宗教性や権威を誇るディテールであり、また極楽浄土へいざなう入り口を示すシンボリックな側面を合わせ持っている。そこには一般在来建築とは様式が違うというだけでなく、非日常性という側面も垣間見える。当時の主な銭湯の利用客である市井の人々には「お伊勢参り」や「金毘羅山参り」、「日光東照宮参り」 など日本各地の神社仏閣への「お参り」旅行は参詣本来の目的に加えてイベントであり娯楽であったことも鑑み、人々の平凡な日常にとって宮型造りの銭湯に足を運ぶことはいつかの「お参り」にいざなう魅力的な装置としても機能した。
風呂は浮き世のケガレを洗い流すという点においては極楽浄土といえる。唐破風が共同浴場に存在し得た理由はそこにあると推測される。